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  • 2021.08.20(金)

    FUJI ROCK FESTIVAL ’21 ご来場予定の皆さんへ

    1)
    MONO NO AWAREはフジロックに出演する予定です。そして、改めてご来場予定の皆さんにお願いがあります。

    フジロックは、出演者、スタッフ、お客さんのそれぞれが感染症対策を行いながら開催されます。 すでに公式HPなどをチェックされている方も多くおられるかと思いますが、念の為、以下に概要を記します。

    ・会場内では常時マスク着用(雨に濡れて使用できなくなる可能性があるのでマスクの予備は必要以上に)
    ・入場時やシャトルバス乗車時の検温実施(37.5℃以上の発熱では入れず、受け入れ先もありません)
    ・こまめな手洗いと手指消毒を(自分でも消毒液の用意を)
    ・大声での歓声や会話NG(友人との会話でもマスク着用)
    ・十分な間隔の確保を(モッシュやダイブ・接触行為NG)
    ・場内禁酒、アルコールNG(キャンプサイト含む全域、持ち込みも禁止)
    ・場内禁煙、喫煙所での会話NG(キャンプサイト含む全域)
    ・体調管理に気をつけて(日中の寒暖差が激しく、早朝は10℃を下回るので防寒を。こまめな水分補給で熱中症予防を)
    ・フジロック公式アプリの事前登録必須(個人情報の提供必須、マップやタイムテーブル機能もある)

    フェスを楽しむと言いつつ、NGがたくさんあります。発熱気味で来場された場合、検温次第では即帰宅せざるを得ない可能性もあります。そして何より、入念な準備がなければコロナ以前に体調を崩しやすい状況下でのフェスです。もしこれらのガイドラインを守る自信がない方は、ご来場の再検討をお願い致します。

    【公式サイトのガイドラインのリンクはこちらです。】
    https://www.fujirockfestival.com/guide/guideline


    2)
    ここからは、なぜこのタイミングで改めて感染症対策について発信をするに至ったのか。その経緯について、僕、ボーカル玉置の文責でご説明いたします。

    僕らは、去る2020年のフジロックへの出演が決まっていましたが、未知のウイルスの出現によって中止を余儀なくされました。当時、これだけ世の中が大変なことになっているのだから、いまはMONO NO AWAREの(文化的・経済的)活動は割りを食っても仕方がないと考えていましたし、あの混乱を思い出すと、現在においても変わらずそう思います。

    そして、2021年のフジロックへの出演をオファーされたとき、既に日毎の感染者数は昨年のそれを上回っていましたが、「開催できるのならもちろん出演したい」という気持ちでいました。昨年に比べて、自分たちの活動も立ち行かなくなる可能性が見え始め、感染者数を増やさないこと”だけ”を目標に仕事をすることが難しくなってきた頃のことです。

    このとき、政府や東京都のガイドラインによって音楽のライブはキャパシティに制限が敷かれ、それのおかげでどうにか、僕らは社会の承認のもとイベントを開催することができる立場になりました。

    しかし、その後も感染者数は増え続け、定期的に緊急事態宣言や新たなガイドラインが生まれては、その状況下で遂行できることをつどつど考える日々が始まります。テレビでもネットでも医療現場の疲弊が危ぶまれ、医療従事者の友人や、重症者の友人の姿にとにかく胸を痛めました。安い言葉だけれど、本当に胸を痛める以外に僕ができることはなかった。

    医療従事者の方々がみな音楽を求めているとは思えないし、重症者および感染者を出さないためには外出自粛が一番の策でしたが、それでは飯を食うことはできず、かといってライブは人が密集するイベントの筆頭だから対策していても医療重視の社会からのバッシングは避けられない…。このような多くのアーティストが抱えたであろう葛藤の無限回廊に何度も迷い込みました。

    そのうち、取り組める仕事がほとんど音源制作に限られました。これは、ものを作りたいという原初的な欲求はもちろんですが、一旦制作で引きこもっている間に感染状況が好転することを願っての行動でもありました。

    そうしてMONO NO AWAREはアルバムを発売し、リリースツアーを行うことになります。このとき、ツアー日程を決めるべき時期には感染者数が落ち着き、緊急事態宣言が解除され、世の中が「アフターコロナ」のムードに突入。もちろん、そう甘くはないだろうと見積もりつつも、感染対策をした上で次々と開催されていくライブに多少の”希望”を感じていました。

    しかし、この希望による反動を考慮すると、ツアーの日程を決めてもまたいつ緊急事態宣言が発出されるか分からない。加えて、既にスケジュールを押さえていた会場を公演延期という形でキャンセルしても、会場だって社員に給料を払わなければならないから、いつまで延期の繰り返しに付き合ってくれるか分からない。つまり、ライブハウスを予約すること自体がリスクになる。

    延期の繰り返しについて言えば、僕らの公演を楽しみにしてくださっていた皆さんも(来てくれた方も来るか迷ってくれた方もありがとうございます)、いつまで僕らを含めた多くのライブ公演を我慢すべきなのか、という葛藤があったのではないかと思います。それだから、日程を組むのにはかなり苦心したし、これはイベンターやプロモーターといったライブ運営職の方々も同じ思い、戦々恐々の毎日だったはずです。

    まるで音楽業界だけが失職の恐怖と戦っているかのような口ぶりは避けたいけれど、実際、僕らの眼前にはそういう”現実”があります。そして、それと並行して毎日のように見る医療者にとっての”現実”、可能な限り外出をしないよう自分の欲求を抑えて生活を送っている方々の”現実”、閉めざるを得ない飲食店、路上飲みせざるを得ない人々、自粛要請に従わない者をバッシングせざるを得ない人々、修学旅行が中止になった高校生、批判されながら再開する飲食店、テレワークを希望しているが会社に出勤を要請され満員電車に乗り込む人々、それらの”現実”を同じ現実として飲み込むのは、まず不可能でした。

    コロナウイルスに限らずとも、ニュースやタイムライン、新聞の端っこにはいつも信じられないような悲しい思いをしている人々の”現実”があります。

    それらを全て”私”が引き受けることはできない。と、僕は考えています。

    飲食店やライブ会場でクラスターが起きて医療が逼迫しても、その責任を誰がどう取るかは誰にも判断できない。同時にその医療逼迫の影響で、事故に遭った僕が入院先が見つからなかったとして、おそらく想像を絶する痛みに苦しむだろうけれど、それでも誰が悪いかとか、責任は誰にあるかなど、僕に問うことはできないと考えます。

    これは、自己責任を論じたいのではなく、何かの責任を問うとき、どれだけ論理的な思考力を持つ人どうしであっても、個人間のやりとりでは限界があるということを言いたいのです。

    そして、そのような個々人の”現実”どうしの摩擦を減らすために、”政治”や”法律”が存在している。もっと正確に言えば「そのために存在していてほしい」と考えています。

    結局、僕らはアルバムのリリースツアーを、緊急事態宣言下で開催しました。政府の発表したガイドラインを厳守し、もはや習慣となった感染症対策を行い、まさかクラスター起きたりしないでくれよな、と祈る日々。

    幸い、クラスターは起こらず、来場された方から感染の報告をいただくこともありませんでした。もちろん、これが「自信、希望になった」とは全く思いません。ただただ、公の承認を得て無事に仕事を果たせたことへの安堵感があったのみです。

    お金がやっと稼げた、それもそうですが、やっと社会の一員である実感を得ることができた、それが何より心を潤わせました。まあこれは個人の感傷に過ぎませんから、お世話になっている皆さんにわざわざお伝えすることではなかったかも知れません。重要なのは、「ガイドラインを遵守して、公に認められて活動できた」という点です。

    今年、フジロックにオファーをもらった当時の、「開催できるのならもちろん出演したい」という思いは今も変わりません。

    つまり、感染者の増減も読めない状況で出演を引き受けた以上、「主催者がルールを守って」開催するのであれば、もちろん出演したいということです。

    フジロックは、政府の設けたガイドラインに則って開催されます。それが、MONO NO AWAREがフジロックに出演する理由です。政府を味方につけたような気になっていい顔をしたいわけではなく、それどころか、このガイドラインにすがるしか、僕らが自分たちの”現実”を大切にしても許される方法が現状ありません。

    そして、出演の意思を固くしたのは結構だが、果たしてこのフジロック直前に批判の声が燃え盛る状況を目の当たりにしながら、音の出る機械からデカい音を出すだけで、MONO NO AWAREというできるだけ優しく人を裁かずギリギリのところまで言葉で表していたいと意思表明してきたバンドは職責を全うしたことになるのか、という疑問も生まれました。

    それで、フジロックが遵守を誓うガイドライン、それの拡散に力添えすることを試みました。

    フジロック運営を行うSMASH取締役の石飛智紹氏は、フジロックにおける最重要事項と言ってもいいお酒を禁ずることにした理由について、「感染対策というのは主催者だけが色々やっても太刀打ちできるものではなく、お客さんと協力して初めて効果がでるものなので、一つ一つちゃんと実行して開催にこぎつけるためには、この決断はどうしても乗り越えないといけないステップだ」(引用元: https://t.co/J89JwsJ2I1)と述べています。

    もちろんお酒のみならず、さまざまな分野において、このような「開催にこぎつけるため」の努力が為されていると思いますし、それら全て「お客さんと協力して初めて効果がでるもの」だと解釈しています。

    それが、出演者である僕らが、皆さんにこのタイミングで改めて感染症対策、そしてフジロックのガイドライン遵守をお願いしている理由です。おそらく多くの方が対策をすでにされていると考えております、それだけ重要なタームに、いま、フェスの音楽はあります。

    緊張感や面倒さとともに僕らの演奏を見ることになるかも知れません。あるいは僕らも、実際に皆さんの顔をステージから拝見するまで、どんな感情で演奏することになるかはわかりません。そして、一出演者として、この文章自体がフジロックに対して越権であるかも知れません。

    しかし、どうか、これを読んでくださった皆さん、そして来場される方。どれだけあなた(そして僕ら)の行動が、フェスや一部の音楽家の未来に影響を及ぼすのか、その予想図を常に心の端っこに置きながらフジロックを楽しんでくださると、ステージに上がる僕らとしては、これ以上の安堵の予感はありません。


    最後に。

    個々人の”現実”どうしの摩擦を減らす「そのために存在していてほしい」”政治”や”法律”が、果たして今どれほど機能しているか、それに基づいたガイドラインで行われるフジロックにどれだけの正当性があるか、という不安を感じる可能性は十分にありますし、それに関しては自信を持って説得することが僕にはできません。

    しかし、”政治”や”法律”がある目的を果たすまでに費やされる時間を考えると、そして今後も新たな変異株などの予想できない事態が起こる可能性を考えると、いつまで待てば「現在の状況に見合った」ガイドラインができるのか、全く持って不透明です。

    だから、「最新の」ガイドラインに則って開催されるフジロックに僕らは出演します。現在不安を感じていらっしゃる方は、今回はご来場をお控えください。皮肉などではなく、いつかは分からないにせよ不安を感じずにライブを観に行ける日が必ず来ると思いますし、そのときになってもまだステージの上に立っていられるよう精進します。

    ここまでお読みいただき、ありがとうございました。文責は僕ですが、内容は成順、豊、竹田、マネージャーと話し合った結果生まれたものです。

    改めて、ご来場予定の皆さん、そしてオンライン視聴予定の皆さん、お会いできるのを心より楽しみにしております。

    MONO NO AWARE一同