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  • 2024.06.06(木)

    MONO NO AWARE「ザ・ビュッフェ」オフィシャルインタビュー



    6月5日(水)、MONO NO AWAREが新作『ザ・ビュッフェ』を発表した。ライブで根強い人気をほこる「ゾッコン」や「そこにあったから」などを収録した前作『行列のできる方舟』から、実に3年ぶり。タイトルからも察せられるとおり、コロナ禍の影響を受けた世界の写し鏡にならざるをえなかった前作は、本人たちいわく「暗くて重かった」という。では、この新作はどうだろう。聴こえてくる音楽の印象はずいぶんと「軽く」、「明るい」。アルバムタイトルも前作と比較すると、日常的でカラフルだ。

    そのコンセプトを決める際に念頭にあったのは、2022年にアカデミー賞作品賞に輝いた映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』だった。

    「みんなでアルバムのテーマを決める会議を開いた時に、僕から『エブエブ』で描いていた『いろんな人生の方向性がありえたよね』という話をやりたいと。それは(その時点ですでに発表していた)『アングル』や『風の向きが変わって』で書いていたことの延長線上にあることでもあって。でも、それを多様性という言葉でまとめてしまうと、前作とテーマが被ってしまう。2024年のいまはより主観的に、『どう生きても良いのになぜ自分はそれを選ぶのか』について書いてみたかった。個人の中にはいろんな側面がある、ということを指摘するだけの状態からどうやって脱出するか。要は、多様性の次にあるステップです」(玉置)

    長年の哲学的な問いとして世界中で議論されてきた自由意志と決定論。「もしかしてありえた可能性」なんてものは本当にあるのか。人間はあらかじめ決められたレールの上を走っているだけにすぎず、自分の意志ではどうにもならないのではないか。アートワークでメンバー4人が料理を前に何ともいえない表情でこちらを見つめてくる『ザ・ビュッフェ』は、その「どうしようもなさ」を主題としている。



    「ゴチャ混ぜの状態ということで、当初は移動という同じ目的でバラバラの人が集まるターミナルや、他人同士なのに全裸で入る銭湯を考えていたんですが、もうすこし気の抜けたものはないかと思って。そこで行き着いたのが、ビュッフェ。ごはんは”生”と直結しているし良いなと。ビュッフェってどうしようもないじゃないですか。供給側が用意したものからしか選べないし、知らない人と一緒のテーブルで食べなきゃいけない。でも楽しい。幸福で、ダサい。世界のありようのメタファーとして成立しているように感じました」(玉置)

    アルバムは、このテーマを凝縮したリードシングル「同釜(読み方:おなかま)」で幕をあける。ボレロ調のドラムで始まり、中盤からはラップを用いて、「鳥貴族」や「松屋」など身近な固有名詞をまじえながら食事の概念を一気呵成に解体していく。

    「この曲は、食事の作法の話から始まり、ラップ部分で『作法はダルい』という話になり、そこから『飯は生きるために食べるよね』という自分の体験に移って、最後は暴力的なサウンドで”痛い”印象を与えながら締める。そういう意味で構築的な曲。まずはこのアルバムの聴き方を作法として押し付けられる、あえてその圧があってもいいのかなと」(玉置)



    このアルバムは「同釜」「野菜もどうぞ」「もうけもん」で作品のコンセプトが説明され、「味見」で最初のハイライトを迎える。この曲は「あ、はい、ストロークスですね!」というイントロから始まり間口は広いが、聴いていくうちに複雑な迷路に誘われるアトラクション的な面白さがあり、中でも一曲の中で変化し続けるドラムパートには耳を奪われる。

    「周啓と話してて、料理の持ってる多国籍性を音楽でも表現できたらいいよねということになって、ロックやトラップやサンバ、あと自分はポリスが好きなのでレゲエのリズムを一曲の中で使ってみたんです」(柳澤)



    「ドラマ(『シェアするラ!インスタントラーメンアレンジ部はじめました。』)の脚本を元に、デモ段階からきちんと構成を作りました。同じパートが二度と登場しない、バラエティパックみたいな曲。で、音楽的にはまんまストロークス。”洋楽憧れ”がバレるのが恥ずかしいからCメロだけ使おう、とかじゃなくて、今回はすっきりド頭からやってみようと。一方でサビを作る時に思い浮かべていたのは、倉木麻衣が手がけていた頃のコナンのエンディング曲。ポップスをあまり聴いてこなかったので、参照点がそれくらいしかない(笑)」(玉置)

    本人たちが影響を受けた00年代の欧米ロック(ストロークス、アークティック・モンキーズ、ヴァンパイア・ウィークエンドetc)と、身体レベルで染みついたJポップとの接合点をどのように生み出すか。それはMNAがデビュー以降ずっとトライしてきたことでもあるが、「味見」ではそれが独自な形で結実している。



    さて、MNAの音楽は「昭和」や「懐かしい」というキーワードで語られることも多く、語弊を恐れずにいえばノスタルジアと相性が良い。だからこそ、それを何とか避けようとした時期もあった。だが、今作では無闇に新しいものに手を伸ばそうとするのではなく、「気持ちよければなんでもいい」という思いが根底にあった。それには、「忘れる」の歌詞を書き始める際、亡くなった祖父が頭に浮かんだことが突破口になったと、玉置は話す。

    「おじいちゃんにまつわる歌詞が一回浮かんで、そこから曲全体を作り始めると、途中で歌詞だけ取っ替えることが難しくなって。でも、そのまま突き進んで懐かしい思い出を描写するだけだとただのノスタルジーで終わるので、『人間は所詮、懐かしんで生きる動物。じゃあ大人になった自分たちがどうやってノスタルジーを扱うか』について考えて歌詞におこしてみようと。そこで曲が出来上がったら、自然といろんな呪いがとけていました」(玉置)

    本作を聴いていて、「気持ちよければなんでもいい」「呪いがとけた」という言葉は実にしっくりくる。たとえば、「風の向きが変わって」や「忘れる」はいつも以上にストレートな魅力に溢れているが、MONO NO AWAREがいまこの時代にこの音をやるという事実が、一オーディエンスとして素直にうれしい。



    「前作はディストピアな情景が浮かぶタイトルや青みがかったジャケットからして、皮肉とまではいわないけれど、どこかダークな雰囲気があった。今作のテーマは『世界はどうしようもないよね』なので、逆に音は『風の向きが変わって』のようなアップテンポで爽やかなものを軸にしたかったんです。音楽はメッセージを超えてくるし、音が明るければやっぱり明るく感じるものなので」(玉置)

    現代を生きる者であれば誰でも一度は感じるであろう「どん詰まり」を打破する方法としての音楽。では、サウンドを明るく響かせるために、具体的にどんな工夫を加えたのだろうか。

    「開放弦を使うことです。MIZ(玉置周啓と加藤成順によるアコースティックユニット)のライブをやったあとに、知り合いのバンドマンから『これをバンドでもやればいいじゃん』と言われたことがヒントになりました。薬指で開放弦を打つとリズムが生まれ、音数が減って涼しげな印象になる。MIZが参考にしているキングス・オブ・コンビニエンスや、レディオヘッドの一部の曲がまさにそれ。今作で聴かせたかったのが、開放弦を使った同じ音域のギターを2本同時に鳴らした状態。どこかピアノの連弾みたいな雰囲気になるんです」(玉置)



    サウンドの面でもうひとつ新しい試みを行っているのが、バンド史上はじめてピアノが入った「88」である。かの有名な「黒鍵だけを使って弾ける曲」をリフレインさせ、そこに予想外のリズムと歌メロを乗せた。ポップマエストロと呼ぶにふさわしい傑作だ。同曲はもともと、ヘーベルハウスのCM曲として依頼されたところから始まったそう。そのお題は「ピアノ曲であること」だった。

    「オファーをいただいた時点では、自分でピアノをアレンジして入れるには文脈と必然性に欠けるからどうしようかなと迷ったんですが、そういえば黒鍵だけで弾く遊びがあったなと思い出して。キーも自動的に決まるので、その制約があるのもやりやすかった。ここでも開放弦を使いました。たとえばヴァンパイア・ウィークエンドはライブで単音を弾くサポートギターを何人か入れるんですよね。あの音の広がりが羨ましかった。この曲はそれを4人で再現するイメージです」(玉置)

    コンセプチュアルな冒頭3曲、そして明確なお題やテーマがあった「味見」「風の向きが変わって」「88」。他方、「あたりまえ」や「うれいらずたのぼー」などはジャムセッションの気軽さに満ちている。



    「『あたりまえ』は昔スタジオセッションした音源が元になっているので、デモのプロジェクトファイルのデータが超軽い(笑)。『うれいらずたのぼー』なんかはラフが完成しなかったので、スタジオで一からセッションしてゴールまでいった曲ですね」(玉置)

    「そういう意味でいうと、今作の曲はアプローチも雰囲気もバラバラ。でも、むしろビュッフェだからそれぞれ違うのがいいんじゃない?という話をしたんですよね。1枚目にあった自由さに回帰したかった」(竹田)

    玉置はここで「コンセプトを重視するがあまり気持ちよさを犠牲にしたくなかった」と付け加える。決定論に立ち返ってみれば、そもそも自分たちはたまたま同じバンドをやっているだけ。みんなMNAの作品を残すために生きているわけじゃない。だからこそ、このアルバムが最後だと思って作ることにしたという。

    「普通に考えていつバンドが終了してもおかしくはないから、もったいぶっても仕方ない。今作を作る中で、ここのフィルはこうじゃなきゃいけないとか、歌との絡みでベースのフレーズはこうあるべきだとか、そういうロジックの優先順位がどんどん下がっていきました。最終的にこのアルバムが完成して世に出ることが一番重要だから、メンバーやエンジニアにも自分が想像している音を変に気を遣わず伝えるようにしたりして。だから今回は、自分が本能的に気持ち良いと思うことしかしていないんです」(玉置)



    はたして、自分たちの運命を変えることは本当にできないのか。MMAは今作においてこれまでとは異なる決断を下すことで、作品あるいはバンドの行く末を変えているようにみえる。「88」でもこう歌われている。「やりたいことは何でもやってやろう/それ踏み込めペダル」。これはオーディエンスに対する問いかけでもあり、玉置周啓はじめメンバーが自分たちに向けた声でもある。

    まさしく「ペダルを踏み込んだ」ことではじめて獲得できた音楽。ただ、人生のどうしようもなさは解決しないし、「多様性の先の新しいコンセプトはこれだ!」と断言できるわけでもない。それはゴールですらない。玉置が話すように、この作品がちゃんと完成して世に出ることが全てだ。

    メンバーの話に静かに耳を傾けていた加藤が、最後にポツンと漏らした。

    「音楽は断定的すぎるとおもしろくない。周啓はずっと迷っているからおもしろいんです」

    文:長畑宏明
    写真:マスダレンゾ

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    MONO NO AWARE
    「ザ・ビュッフェ」
    2024年6月5日(水)発売

    ・初回限定BOX
    品番:PECF-9062
    定価:¥5,500 (税抜価格:¥5,000)
    形態:CD+フォトブック、ポスター、リリックペーパー他

    ・通常盤
    品番:PECF-3290
    定価:¥3,080 (税抜価格:¥2,800)
    形態:CD

    収録曲
    1.同釜
    2.野菜もどうぞ
    3.もうけもん
    4.味見
    5.イニョン
    6.風の向きが変わって
    7.お察し身
    8.あたりまえ
    9.88
    10.うれいらずたのぼー
    11.忘れる
    12.アングル

    アルバム購入リンクURL:
    https://mononoaware.lnk.to/thebuffet
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    MONO NO AWARE「アラカルトツアー」

    6/7(金)@東京Spotify O-EAST【SOLD OUT】
    6/14(金)@福岡BEAT STATION
    6/15(土)@広島CAVE-BE
    6/16(日)@神戸月世界【SOLD OUT】
    6/21(金)@愛知 NAGOYA CLUB QUATTRO
    6/22(土)@高松TOONICE【SOLD OUT】
    6/23(日)@大阪UMEDA CLUB QUATTRO
    6/28(金)@台北 THE WALL
    7/6(土)@札幌 Bessie Hall
    7/12(金)@仙台MACANA
    7/14(日)@新潟GOLDEN PIGS BLACK
    7/15(月)@金沢GOLD CREEK

    TICKET: 前売料金 ¥4,800(Drink代別)

    チケット予約 https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=FA130002 問い合わせ SMASH https://smash-jpn.com 台湾公演問い合わせBIG ROMANTIC https://romanticoffice.kktix.cc/events/240628